【東日本大震災】僕は走る、お姉ちゃんの分まで 高橋宗司さん

◇宮城・東松島  

まっすぐのびる宮城・野蒜(のびる)海岸を走る。幼いころいつも遊んだ場所。いま、周辺でかさ上げ工事が進む。

高橋宗司(そうし)さん(22)にとって、本格的に走るのは正月の箱根駅伝以来。ふるさとを走るのも久しぶりだ。

もっとお姉ちゃんと一緒に走っておけば良かった――。  

姉の沙織さんとの2人姉弟。母の千賀子さん(54)は「幼い弟に、お姉ちゃんがいつもかまっている感じだった」と振り返る。

走ることが好きだった沙織さん。中距離が得意だった。千賀子さんは、宗司さんにも陸上を勧めた。本格的に始めると、高3でインターハイに出場する才能を発揮した。

「練習の手抜きやめなよ」。四つ上の姉は時折口を出した。「俺はお姉ちゃんと違って走れる」。結果を出す弟は反発した。

4年前。推薦で青山学院大に進んだ。陸上のためだけでなく、「都会で大学生活をしたい」という思いもあった。そんな自分に、テレビにかじりついて箱根駅伝を見ていた大学4年の姉は「出られたら良いね」と笑った。

あの日。

午後3時ごろ、携帯が鳴った。「めっちゃ散らかった」。姉からの画像付きメール。宮城県東松島市野蒜にある実家2階の、見慣れた姉の部屋だった。自分はその4日前、東京・町田の陸上競技部の寮に入っていた。そのメールを最後に、姉と連絡がとれなくなった。津波に襲われた野蒜地区。見つかったのは、数日後だった。  

姉はたびたび、夢に出てきた。朝、食卓を囲み、学校に飛び出していく。そんな日常風景を見て、目が覚める。「なんでいないんだ」。夢に出てきた日は、朝練ができなかった。

被災地出身の自分は頑張らないと。そう言い聞かせる一方で、周囲から「被災地出身」と注目され、「姉のために走っているわけじゃない」と反発した。

結果を出したい思いと、出さなければという義務感。過食症になった。1年目。箱根はメンバー落ちした。

ふと、姉がツイッターをやっていたことを思いだした。震災5日前の書き込みを見つけた。「あした弟が入寮しちゃう。ブラコンのお姉ちゃんは寂しいな」

弟思いの意味。「そんなに仲良かったかよ」。画面が涙でにじんだ。

この頃から、姉の夢を見たときに「見守ってくれている」「頑張ろうか」と思えるようになった。まじめに練習をしていた姉。自分も毎朝5時に起きて朝練し、門限の午後10時は必ず守った。

2年目は箱根のメンバーに入った。8区で区間賞。3年目は最も厳しい上りの5区を任された。

姉が夢に出てくる回数はいつの間にか減っていた。

今年1月3日。最後の箱根。午前3時に起床。10時。たすきを受ける。

駅伝は自分との対話だ。歩幅は狭くなっていないか、腕の振りはどうだ。一歩ずつ、体に声をかける。

後半、長い坂にさしかかる。沿道に両親がいた。母は姉の遺影を掲げている。同じ8区だった2年前は見つけられなかった3人に、今年は笑顔で手を振った。

区間賞、総合優勝。  姉の夢を、かなえた。    

あの日から4年。「体育に関わりたい」と地元の高校で保健の講師になることを決めていた姉と同じ、社会に出る年齢になった。

姉がその頃していたように、両親の意見をなるべく聞き、自分がどんな社会人になりたいのかを考える。

4月、飲料メーカーに就職する。いまは東京でアルバイトをしながら、春からの新生活に備える日々だ。 

朝日新聞

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