【東日本大震災】生涯 民謡とともに 歌い方習っておくんだった

【東日本大震災】生涯 民謡とともに 歌い方習っておくんだった

南相馬市原町区 山本三義さん=当時73=

南相馬市萱浜の海を臨む墓地。時折、肌を刺す浜風が吹き抜ける。東日本大震災津波で多くの墓石が流され、いまだ痛々しい姿をさらす。

かすかに波音が聞こえる。静寂の中、中央付近に立つ墓標。その下に、誰よりも民謡を愛し、原町民謡ひばり会主、日本民謡協会南相馬支部長を務めていた南相馬市原町区萱浜の山本三義(みつよし)さんが眠る。

2月中旬、市内で追悼発表会が開かれた。山本さんが、相馬地方を思う「新相馬節」を歌う姿を、多くの門下生が思い起こした。

はるかかなたは 相馬の空かよ  相馬恋しや なつかしや

17歳の時、山本さんは民謡に出合った。「相馬胴突き唄」「相馬流れ山」「相馬二遍返し」を地元の公民館で初めて聞いた。相馬地方に伝わる勇壮な節回しに心を奪われた。

市内の会社に勤めながら精進を重ねた。会社を辞め、魚の行商を始めてからも相馬民謡への情熱は衰えなかった。多くの人に郷土の宝「民謡」を知ってもらおうと40年ほど前、ひばり会をつくった。相馬流れ山全国大会や相馬民謡全国大会での優勝経験もある。

民謡の継承にも力を注いだ。「古調相馬盆歌」「古調相馬長持唄」は60年ほど前に歌い手が途絶えた。「相馬民謡の灯を消してはいけない」との一念で、資料を読み解き、CDを自費製作した。

昨年3月11日、山本さんと妻の文子さん=当時(73)=は自宅にいた。長い揺れの後、近所の石塀が倒壊したのを知った。2人で片付けを手伝い、近所の家の被害を確認していた時、大津波が2人をのみ込んだという。

それから数週間が過ぎた3月下旬、東京電力福島第一原発事故を受けて神奈川県に避難していた長男善男さん(52)の元に、父親に似ている人が発見されたと連絡があった。

消防団員の知人からの知らせを受け翌日、南相馬市内の遺体安置所でひつぎに納められた遺体を確認した。「すぐに父親だとわかった」

ほどなく文子さんの遺体も山本さんが発見された場所の近くで見つかった。

民謡のけいこで家を空けることが多かった父。生活を必死で支えた母。震災当時は善男さんと妻(50)、長男(22)と同居していた。一瞬で2人が消えた。民謡のけいこをする父の歌声が家に響くことは、もうない。

善男さんには後悔していることが一つある。数年前、父に民謡を教えてもらおうかと思ったが、どこか気恥ずかしく言い出せなかった。「歌い方を習っておくんだった。頼みたくても、もう頼めないもんな…」

 

■原町民謡ひばり会  山本三義さんを会主に40年ほど前に南相馬市原町区で設立した。押野みどりさんが会長を務め、多い時は約100人ほどの愛好家が集い、相馬民謡の伝統をつないだ。

11月には節目となる35回目の民謡民舞発表会を開く。東日本大震災で山本さんら3人が犠牲になった。2月中旬には山本さんらの追悼式を兼ねた34回発表会を開いた。 

福島民報

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